二つのレクイエム2010年04月11日 15時21分34秒

"うさぎへ
ありがとう、ありがとう、ありがとう。
戻れないところにきてしまったようだ。本当に後悔している・・・
で、はじまる「うさぎ幻化行」(東京創元社 北森鴻 著)は、連載に加筆修正して単行本となった北森鴻氏の遺作となってしまいました。

うさぎ幻化行

ストーリーは「うさぎへ」という遺書とともに「音のメッセージ」を残してあり、その謎を追いかけて、音風景を巡る連作長編です。
これは、各編ごとに、一つの話として完結し、それが最後に全部結びついて謎解きでどんでん返しという氏の得意のパターンです。

今回は「うさぎ」という女性がその謎を追いかけていきます。
最後は、ちょっと意外な終わりかたで、残念ながら氏の一連の著作でのベストではないですが、「音風景」を文字で表現するうまさは、文字から音のイメージが浮かび鳴りだしてくるようです。

1月25日急性心不全で48歳の若さで逝ってしまった北森鴻氏は、最近の作家で好きな作家の一人で、2007年にたまたま北森氏の著書を買ってから、文庫化されている著書は全部読むぐらい好みの作風でした。

blogで「今、北森鴻がおもしろい!」を書いたのが2007年10月でした。
http://eurasia-walk.asablo.jp/blog/2007/10/30/1879874
ながらく雑誌などライターをしていて、デビューは2000年の「狂乱二十四季」。
特に短編が上手い作家でした。
それから10年という短い期間で多く著書を残しで逝ってしまいました。

香菜里屋の工藤マスターにも、
異端の民族学者の蓮丈那智と、その助手の三国にも、
冬狐堂の宇佐見陶子にも、
雅蘭堂の越名集治にも・・・もう会えないかと思うととても残念です・・・合唱

この「うさぎ幻化行」ですが、密林に注文したのが3月13日で、本が上手く入荷できないなどで珍しく遅れて、私の手元に届いたのが3月28日でした。
奥付は再版かなと思ったのですが初版でした、集荷に苦労したことを窺わせます。

さて、北森氏の著作を注文したときに「遺作」というキーワードからの本の紹介がありました。
その中に「レクイエム」というヴェトナム・カンボジア・ラオスの戦場にに散った報道カメラマンの遺作集です。

レクイエム1

31cm×20cmという大判の写真集で発売は1997年(集英社)。
ロバート・キャパからアンリ・ユエ、沢田教一、一ノ瀬泰造、島元啓三郎そして北ベトナムのカメラマンなど100人以上の遺作、本人の死ぬ前の最後の一枚を含めた構成となっています。

この写真集、発売された当初「欲しい」と思っていたのですが6,800円という値段に躊躇して買わず、そのまま記憶から消えていました。
今回、アマゾンの案内で中古で3,100円という値段がついていました。
迷わず購入。

写真だけではなくカメラマンへの追悼文や、中にはラジオ中継した横でカメラマンが打たれて死んだときの実況など、単なる写真集ではなく背景まで理解できるような構成です。
そして、カメラマンが死んだときの状況などとても詳しく書いてあり編集者の思いと信念が伝わる素晴らしい写真集です。

写真一枚一枚を見ていくと、ベトナム戦争の取材で名をあげて一流になりたいというカメラマンの執念と命を懸けて撮った写真の凄み、北側のカメラマンの写真の迫力など一枚の写真の力を強く感じます。

深夜、ウィスキーを飲みながら読んでいる(見ている)と、おもわず「う~ん、すごい」と唸ってしまいました。
そして訳もなく涙が出そうになりました。
レクイエム・・・人の心をふるわせる写真集です。