思い立って美術館巡り2010年03月13日 18時34分17秒

三島駅の改札を出ると新幹線から見ていた以上に強い降りの雨だった。
富士山の麓にいるのに全く見えない。
タクシーに乗り運転手に「クレマチスの丘へ。」と告げた。
週末、仕事もプライベートも予定がなかったので、三島へ行こうと決めたのは前日の晩だった。

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以前、三谷眞紀さんのブログでIZU PHOTO MUSEUMのレビューを読み、行きたいと思っていたが例年2~3月は仕事が忙しくあきらめていた。
が、3月6~7日だけは写真の神様が「行っていいよ」と時間をくれたようなものである。
http://apakaba.exblog.jp/13467026/
クレマチスの丘に到着したがガスがかかり雨もいっそう強くなってきた。
駐車場からIZU PHOTO MUSEUMまで100m足らずなのに足下はずぶ濡れになってしまった。

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目的の写真展は「杉本博司 光の自然(じねん)」。
杉本博司という写真家は、60年代からアメリカをベースに活動をしており日本より世界で有名な写真家である。
私は5年前、六本木ヒルズで杉本博司の写真を初めてプリントで見て衝撃を受けたことは未だ鮮明に覚えている。
このMUSEUMは杉本博司は設計監修して昨年10月にオープンした。

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そのこけら落としの写真展が「光の自然」である。
エントランスから場内に入ると空間が広がっている。奥行き25m、幅10m、高さ5mといったところか。

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上の図面を見て欲しい。(クリックしたら大きくなります。)
その空間の1の壁にフィルムに直接放電して光跡を焼き付けた縦1.5m横7.2mという屏風でいう6双1組の作品が2点並べられている。
そして2の場所には2mぐらいの台座の上に13世紀頃の作の60cmほどの雷神像が1点展示されていてスポットが当てられている。
「なんだこれは?」
黒いプリントの上に白い光跡が何本も広がっている。
それが壁一面に広がっているが、どうもピンとこない。
杉本博司は今までも斬新なアイデアと想像力で撮っているが、これは放電した光跡の偶然を焼き付けただけではないのかと感じた。
期待が大きかっただけに、肩透かしをくったようである。
雷神像の意味もよくわからなかった。

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そのまま通り抜けGallary3へ行くと、19世紀にタルボ・タイプのネガポジ法を発明したタルボットの紙ネガ再現した写真「光子的素描」である。
13点の写真は全倍のサイズで着色されて展示されている。そのトーンの奥には2世紀前の人や標本がかすかな光で輪郭を見せている。
う~ん、これはすごい。
フィルムが終わりをむかえようとしている今、そのフィルム初期の写真を蘇らせてしまう発想手法は杉本博司のすごいところである。

100坪あまりのスペースしか無いので展示場としてはこれで終わりなので出口に向かおうと、12と13の間の通路を抜けたとたん足が止まってしまった。
こういう意味だったのか。
空間全体に放電されているように見えてきた。
左奥の雷神像から雷が放たれ、それが光跡となって右側の写真に焼き付けられていく。
展示されている写真が変わるわけでは無いのに、なぜか時間が経つごとに光跡が変わっていくようである。
私はしばらく動けなくなってしまった。
「そうか、この作品は写真と空間と雷神像があわさって完成するんだ。」
背中がぞくぞくしてきた。
わざわざ三島まできたかいがあったよ。

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次はシャトルバスに乗って5分。
ベルナール・ビュフェ美術館へ。
ここは1973年にビュフェのパトロンであった岡野喜一郎氏によって建てられた美術館で2,000点もの作品を収蔵している。
ビュフェのイメージはアナベルとアオリをきかせたような建築物の直線である。
実は新具象派と呼ばれるビュフェの作品は苦手である。
特に初期の人物の肖像画はグロテスクというか不気味ともいえる表現で好みではない。
風景画は直線で構成されていて、こちらは面白く見ことができた。
それにしても膨大な作品数、よく個人でここまで集めたものだと感心しながら展示を見ていった。

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アナベルと結婚後は表現が軟らかくなっていくのがわかるが、見たかったアナベルの肖像画は1点のみの展示であった。
ビュフェの作品はアナベル以外は女性でないという作品が多く、アナベルだけは永遠に若いままである。
膨大な点数でゲップがでるほど堪能して美術館を出た。

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雨はいっそう強くなってきた。
三島駅へ行く無料シャトルバスを待ちながら昼食。

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これだけ降られると撮影する気力もおこらない。
それでもバス停ちかくの河津桜を撮ったら、それだけで靴の中がぐしょぐしょ、なんかそれだけで写真をとる気力が失せてしまう。

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新幹線で東京へ。
恵比寿ガーデンプレイスでエビス・スタウトを一杯。

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翌日は六本木の国立新美術館へ。
「ルノワール~伝統と革新」。
日本人はルノワールが大好き。

renoir

朝10時開館直後なのに多くの来場者。
特に入口の一番近い展示スペースでは、「団扇をもつ若い女」とか「ブージヴァルのダンス」などの有名作品が展示されていてみんなが足を止めているので大混雑。
進んでいくとルノワールの独特の裸婦像や風景画などここまでくるとゆったり見ることができた。
ルノワールの絵って印刷と実物はまったく印象が違う、実物は濃淡と複雑な色あいで輝いている。
昔パリのオルセー美術館で「都会のダンス」と「田舎のダンス」や「ムーラン・ドゥ・ラ・ギャレット」の実物を初めて見た時の輝きは未だ忘れない。
印刷ではわからない「印象」である。

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2日間で3つの美術館巡りで、さすがに満腹、堪能した。
いや満足した2日間だった。

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最後に三谷眞紀さん、急なお誘いにもかかわらずルノワール展とランチにお付き合いいただきありがとうございました。


コメント

_ 三谷眞紀 ― 2010年03月13日 20時12分47秒

ステキーな週末。
杉本博司展の記事リンク、ありがとうありがとう!
会期終了間近、この記事で一人でも行ってくれるといいなあ。
あの人は、本当に「天才」だからね。
アイデアが、あふれてあふれて仕方がないんだ!という仕事をする人だ。
しかし、第一室の放電のほうの第一印象がピンと来なかった、というのは意外でした。
一周してきて視点が変わって初めて「ああっ!」と、彼の天才を見せつけられる……とは、実際足を運んだ醍醐味ですね。

第二室の、小さい中庭とエントランスにあった木のベンチ、無垢の白木の手触りがいいでしょう。
脚の部分は円筒状のガラスでできていて、「白木と、ガラスの組み合わせ。直島の護王神社の斬新な素材と同じだなあ」と思いました。
やはり、次は直島に行かねば……と。
杉本博司は体感する“アーティスト”ですね。

こちらは京都散策を連載中です。
また読んでください。

_ ogawa ― 2010年03月15日 20時55分12秒

>眞紀さん
杉本博司の写真点も明日で終わりだねぇ。
第一室最初に入った時は写真は大きいけど、これは偶然にできた光跡だと思いましたから。
一周回って意図が理解できましたよ。

京都散策、面白いですね。
次も待っていますよ。

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